7月28日に開催された、世界開発協力機構(WSD)主催、国際民主同盟(IDU)共催、「第6回世界オピニオンリーダーズサミット」と、翌29日に開催された公益財団法人日本国際フォーラム主催、WSDとIDU共催による特別講演会 : 世界の真相「ウクライナ戦争と今後の世界を語る」の、詳しい内容について、2回に分けて紹介します。
まず今回は、「第6回世界オピニオンリーダーズサミット」に世界から集まった6名の元首相のうち、3名の元首相による基調講演の内容について、新聞や雑誌の報道から切り取りの形になりますが紹介していきます。今回のサミットの全体の概要については、以下の記事を参照してください。
世界開発協力機構、半田晴久総裁の挨拶
まず冒頭、主催者代表の深見東州先生(半田晴久WSD総裁)の挨拶の一部を要約して紹介します。
「本来でしたら、私の後には安倍晋三元首相にご挨拶していただく予定でした。今回のメインスピーカーは、全員が安倍元首相と同時代の首相で、史上最長の8年8ヶ月と言う在任期間中に、保守のリーダーとしてご一緒しており、来日して再会することを楽しみにしていました。・・・本当に残念です。」
われわれWSDは、発足以来、一貫して外交や国際問題に対して、国益や公益に基づく提言をおこなってきました。私は政治家ではなく、保守でもリベラルでもない超党派ですが、両者のバランスが大切だと考えます。保守と民主の両政権が交代していくことが健全であり、社会を浄化していくからです。
現在は、自由放任主義が行きすぎて、格差が生まれ、米国が共和党から民主党へ、豪州が保守党から労働党になるなど、民主政権に変わっている国も多く、民主政権が世界の中心になっています。世界的に保守が劣勢なので、バランスを取るために今回開催しました。
両方の見地に立って、世界や人々が良くなったらいい、国が栄えていけばいいという考えにもとずき、超党派という立場でお招きしています。国を担うという責任ある立場で学んできた方たちなので、総合的な叡智を持たれています。そのような首相経験がある保守リーダーの意見を聞き、世界の諸問題を議論することで、世界や各国の重要課題を広く一般に知ってもらうことが、民間の公益団体である我々が主催する意義です。
保守とは、フランス語のレッセフェール(自由放任主義)を守る立場で、減税と小さな政府、民主は規制と増税と大きな政府が基本です。それぞれに長所と短所があります。政権交代によって発展してきたのが民主主義国家であり、今回の登壇者はいずれも保守の政治家として、国家の成長をリードしてきた実績を誇っています。
第一部、スティーブン・ハーパーカナダ元首相(IDU議長)
基調講演「世界における米国の役割 : その変化と日本およびインド太平洋地域への影響」
スティーブン・ハーパー氏は、現在の世界が直面している乗り越えるべき3つの課題を提起しました。一つ目は「ナイーブなグローバリズムと呼ぶものの終焉」です。
ロシアによるウクライナ侵攻とそれに対する西側諸国の経済制裁は、両者の経済関係を長期的、かつ包括的に断絶させるほど厳しいものになるなど、中国やロシアが世界にもたらしている経済的混乱について語り、異なる政治体制下のせめぎ合いの危険は着実に減少しているという冷戦後の思い込みの誤りを指摘しました。
グローバル化の中で、ウクライナ問題や中国の動向にみられるような地政学的リスクを正しく認識する必要があり、民主主義陣営は戦略的に対応していく必要があると述べました。
その上で、そうした状況にいち早く対応していたのが安倍元首相だったと述べました。安倍元首相がTPP交渉やクワッドなどを通じて、域内の脅威を軽減したことの意義について言及し、民主主義世界の大半が、中国の挑戦がもたらす課題を理解しはじめたばかりだった時期に、安倍元首相は中国のリスクを明らかにし、すでに中国に対処するための戦略的グローバリゼーションと呼ぶべき、アプローチの基礎を築いていたことを指摘しました。
二つ目は、パンデミック後の経済回復に向け、出口戦略がある国とない国とで明暗が分かれると予測し、対処として、健全な保守的価値観に基づく対策が必要。すなわち、自由企業の財政的責任と健全な金融政策が肝要になる。それらの政策は必然的にIDUの政党から打ち出されるべきものだと主張しました。
「私は2年前から大きな課題の一つとして「パンデミックパーティーの二日酔い」を挙げています。パンデミック期間中の政府による経済への異常な介入が、必然的にもたらす負の結果のことです。各国の金融緩和政策はあまりにも包括的、かつ例を見ないほど無謀なレベルであったため、今になってほとんどの国が激しいインフレに陥ることは、予見できたはずです。なのに、各国の指導者たちからは、「ビルドバックベター(より良い復興)」と言う言葉をよく耳にします。現在の政策を継続するということです。その結果は厳しい苦境となって跳ね返ってくるでしょう。」
三つ目は、多くの民主主義国家でポピュリストの台頭と社会の分断が起こっていることです。大規模な赤字や負債への対策を、パンデミック以前から複雑化している政治状況のもとで行わなければならないことを指摘しました。ただ、これら困難な課題について、決して悲観的になる必要はないとし、民主主義国家は適応力と回復力に優れ、軌道修正する能力も高く、我々はこれらの課題を全て乗り越えていけると述べ、中道右派がリードする自由な社会でこそ、これらの課題への解決策を見出すことができると主張しました。
第二部 デーヴィッド・キャメロン英国元首相
基調講演「新世界秩序 : ブレグジット、ポピュリズム、保護主義とプーチン ー グローバリゼーション、およびインド太平洋地域との国際関係の将来性において、これらは何を意味するのか?」
キャメロン氏はまず、「私は長年にわたって晋三と密に仕事をしてきました。彼の思い出は親しい同僚であり、盟友であり、友人であったと言うことです。また、愛国的で熱狂的なスポーツファンの1人でした。ラグビーW杯で、南アフリカに日本が勝ったときの試合球を彼に贈ったことは決して忘れないでしょう。彼は偉大な人物であり、素晴らしい政治家でした。私は彼の家族、友人、そして日本の人々に日々想いを馳せています。」と語りました。
世界はパンデミックやヨーロッパでの戦争、中国の侵略の加速、インフレやエネルギーの高騰など、多くの困難に直面していますが、闇の中にも明るさはあると述べました。安倍元首相の「希望は成長する上で最も大切な要素」という言葉を引用し、現在の状況から抜け出す方法は、国民の団結、そして国と国との団結ですと述べ、安倍元首相も言っていた『西側諸国の団結、結束』はとても大切ですと語りました。
ロシアがウクライナを攻撃したとき、国連で同じ連帯を示せなかった国が多かった。その理由は各国で違うかもしれませんが、どこかの国が他の国を攻撃した。こんなときにNOと言えなければ、どこに希望があるのか。民主制の同盟・価値観を共有し、連帯・結束を示すことができれば、間違った方向には長く進まず、子供たちにより良い未来を残せるはずだと述べました。
確かにプーチンは領土を奪いましたが、膨大な損失、欧州の西側の結束と制裁、そしてキエフ周辺からの屈辱的な撤退は、横暴は報われないことを示しています。プーチンが壁に突き当たったのは、西側諸国がウクライナの後ろで団結したからです。今、自己主張を強め攻撃的になっている中国が、インド太平洋地域のオーカスやクアッドを目の当たりにしているのも同じです。暗闇から抜け出す唯一の方法は、共に歩むことです。国民、そして国として、私たちは団結しなければいけませんと語りました。
英国がEUから離脱したことにも触れ、協力的なパートナーシップや隣人になるには、正式加盟国である必要はないことが証明されつつあるとし、大事なのは国内での団結、国々をまたいで団結するということです。そして価値を基盤とする時にのみ、その団結は真に力を発揮することを強調しました。
解決すべき課題として、5つの敵と戦う必要があると述べます。「ポピュリズムへの対応」「発展途上国の開発のサポート」「自由貿易の保護」「多国間主義の強化」「中国との協力体制」です。
経済的、社会的に取り残された人々の不満を利用するポピュリズムに対しては、より良い教育やスキルの提供が重要になると述べました。
発展途上国のサポートについては、国民総所得(GNI)の0.7%を援助に費やすという公約を達成したことを振り返り、「世界的な貧困はテロ、犯罪、大量移住、パンデミックを引き起こします。援助と貿易は世界の最貧国を助けてくれるだけでなく、私たちも助けてくれることを強調しました。その上で、発展途上国を中国の手に入れさせず、問題を解決するのではなく支配しようとする中国から民主主義の国を守りましょうと語り、途上国や新興国が、特定の国に取り込まれないように、支援する必要性にも言及しました。
自由市場を閉鎖するような動きも課題であるとし、ウクライナ侵攻で多くの国がいかにエネルギーや食糧をロシアに依存していたかが露呈しましたが、保護主義に後退してはならないと警鐘を鳴らしました。
また、コロナ禍を念頭に、地域や国境を超えて課題を解決するグローバルガバナンスの重要性を説き、世界的なワクチンアライアンスが、20年間で9億人近い子供たちを救ったことを例示し、現在の柔軟なデジタル社会なら迅速に対応できると提言しました。
愛国者とグローバリストは互いに排他的ではない。直面している大きな問題を解決するには両者が必要。それらを実践していきましょうと述べました。
そして首相当時は、外交政策の鍵となる中国と協力体制を築いたが、現在の中国に対しても、対話を放棄するのではなく、間違ったことに対しては厳しく対処しながら、協力することにより初めて両者にとっての最難問に対峙することができると語りました。
最後に日本と英国は、地理的にも離れ、習慣も文化も異なるが、民主主義・自由・法による支配という価値観を共有しているからこそ、距離を隔てても強く連帯し団結することができると明言し、一緒に新しい時代を創り出していきましょうと締めくくりました。
それから講演会中ではありませんが、キャメロン氏は、ウクライナから避難してきた家族のために自宅の一部を提供していることも明かされました。
「多くのウクライナ人たちが住むところが無いと言っていて、私の家には空いているスペースがありました。その家族の1人は私の娘と同じ歳で、よく一緒に遊んでいます。彼女の英語が上達し、他のウクライナ人たちのために通訳をしていることを誇りに思います。英国はもともと人種の坩堝であり、この困難な状況を逃れてくる人たち皆に手を差し伸べたい。英国としても、優秀な人材を受け入れることはメリットになります。」
第三部、スコット・モリソン豪州元首相
基調講演「クアッド : この新パートナーシップがいかにして日本の平和を維持し、その近隣地域における民主主義を強化できるのか?」
モリソン氏はまず、クアッドに対する日本の貢献について謝意を表し、「我々は独立した主権国家が威圧や覇権主義的な影響から解放され、ルールにもとずく秩序にのっとり、合法的な国益を追求し、国民の生活の質を向上させるためのビジョンを共有しています」と述べました。さらに共有する価値観にもとずきつつも、各国がこの地域に対する独自の視点を共有することで、自分たちはより広い視野を理解し、個々に有益な対応が取れることを強調しました。
その上で、日本とオーストラリアの利害関係は完全に一致し、その観点から、中国とロシアにどう向き合えば良いのかを深く考察しました。
安倍元首相の謙虚さと気高さは、その強さと洞察力と相まって、自由を支持し世界秩序を信じる人々に尊敬されていると述べ、「自由で開かれたインド太平洋と言う彼のビジョンは、志を同じくする国々に受け入れられ、2国間、地域間、そして世界的な取り組みに明確な指針を与えています。政治、経済、安全保障の問題を生来から理解していた彼は、マイケル・グリーン氏が、最新の著作で日本の優位線と呼んだものを推し進めました。
しかし私は、彼がそれ以上のことを行ったと考えます。それは自由な市場に基づく民主主義国家と経済のために、優位線をより広範に我々の地域に押し広げることでした。オーストラリアと日本の利害関係が強く一致したことで、我々は非常によく似た道を歩むことになったのです。」と語りました。
また、この10年間の中国の強権的態度に対して、強い姿勢で対応したことをふりかえりつつ、クアッドや同盟国とのパートナーシップ強化の必要性に言及しました。
オーストラリアがまず強力な経済を確率し、国防能力を回復したことを紹介し、同盟や提携を通じ、ASEAN諸国との包括的戦略パートナーシップの締結、2021年には米英豪の軍事同盟「オーカス」を締結し、日本との間では初の相互役務提供合意を締結するなど、安全保障のイニシアチブや新たな貿易協定などの国際機会を拡大し、志を同じくするパートナーと共に全ての目的を追求していくことを述べました。
自由な国家は連携し、立ち上がっていじめっ子に立ち向かう必要があると、自由主義国家同士の強い結びつきを呼びかけました。真の安全のためには、力による平和も必要だと語りました。
中国は自由主義より独裁主義に資する形で、この地域を再編しようとする動きを強めています。ロシアと共に世界が警戒すべき独裁政権国家とし、その中で、自由で開かれたインド・太平洋を達成するために必要な経済、安全、環境、政治の目的に取り組む多面的で焦点を絞った課題を採用することで、クアッドが地域の持続的な平和と安定に貢献することになるとの決意を述べ、繁栄の前提条件になることを強調しました。