昨年12月に開催された「 どこにもない楽しさ、クリスマス時計宝飾展示会」(主催 : 一般社団法人東京芸術財団、共催 : 株式会社ミスズ)の最終日、19日に上演された、クリスマス・バレエガラについて書きたいと思います。
第1部「オダリスク」と「ダイアナとアクティオン」
第1部は、前半はバレエ「海賊」より「オダリスク」です。
オダリスクとは女性の奴隷のことです。3人の可憐なバレリーナが登場するパ・ド・トロワ(3人が絡む踊り)になります。アントレ、第1~第3バリエーション、コーダの一連の踊りを見ることができました。バリエーションとは、舞台の真ん中で一人で踊る、バレエにとっての見せ場になります。
このシーンは、女性の奴隷たちが、買い手の前で競売にかけられているシーンになります。少しでも高く売れるようにと笑顔を強いられているのか、良い買い手に巡り合うようにと思っている笑顔なのか、いずれにしても笑顔で踊る奥に悲哀を感じさせるシーンを、且股治奈さんら3人のバレリーナが美しく、クールに踊りました。
後半は、バレエ「エスメラルダ」より「ダイアナとアクティオン」です。
エスメラルダの原作はヴィクトル・ユゴー作「ノートルダムのせむし男」です。原作に出てくるジプシーの美女エスメラルダと彼女に恋をする3人の男性にフォーカスし、バレエ作品にしたのだそうです。
そのエスメラルダの第2幕の中で、ストーリとは関係なく、ディベルティスマンとして挿入され上演されているのが、この「ダイアナとアクティオン」のグラン・パ・ド・ドゥです。この作品の中でも最も人気があるそうです。
ディベルティスマンには「気晴らし,娯楽」という意味がありますが、バレエにおいては、 2人以上のダンサーが短い踊りを次々に踊り、小曲集のような一つのまとまりとなった場面のことを指し、物語からは独立しているそうです。
かなり高難度の踊りだと思いましたが、それを渡部真衣さんと岡田晃明さんが、優雅に、時にダイナミックに、舞台いっぱいに踊りました。
第2部「影の王国」
第2部は、これも人気演目の「ラ・バヤデール」から「影の王国」です。古代インドを舞台とするストーリーで、寺院の舞姫ニキヤを山本彩未さんが、ニキアと愛し合う戦士ソロルを杉浦恭太さんが務めました。
ソロルは主人である領主から、娘と結婚するように言い渡されます。ソロルは戸惑いつつも、娘のガムザッティの美しさにひかれ、結婚を承諾してしまいます。そしてガムザッティは、ソロルとニキヤが愛し合っていることを知ると、最後にはニキヤを毒殺してしまいます。
この「影の王国」では、結果的にニキヤを裏切り、死に追いやってしまったソロルが、その苦しみから逃れるためにアヘンを吸い、幻影(影の王国)を見る場面です。その幻影には美しいバヤデール(インドの舞姫)がたくさん登場し、そこにはニキヤもいます。ソロルはニキヤに許しを乞い、ともに踊ります。
まず最初に登場する、精霊たちのコール・ド・バレエ(群舞)が大きな見せ場になります。一人、また一人と、次々と真っ白なチュチュのバレリーナが、アラベスク(片脚で立ち、上げた脚をまっすぐ後方へ伸ばすクラシックバレエのポーズ)をしながらクネクネと舞台を進んできます。今回の舞台にはセットの坂はありませんでしたが、本来は坂を降りてくるので、ただでさえ一糸乱れず踊るコールドバレエが、ますます難しくなるそうです。
24人とか、多い時には32人で踊ることもあり、40回近くアラベスクをするバレリーナもいるそうです。今回は12人のバレリーナによるコールドバレエでしたが、それでも乱れずにやるのは大変なことだと思いました。しかしピッタリと息の合った、とてもすばらしいコールドバレエを見せてくれました。幻想のシーンなので、幾何学的な美しさの中にも、幽玄な世界観が伝わってきました。
そして幻想の世界で踊るニキヤとソロルのパ・ド・ドゥ(男女二人の踊り)へと続いていきます。これがまたとても美しい踊りでした。非常に難しい技術がたくさん入った踊りだったと思います。
今回も昨年に続き、非常にレベルが高いバレエを、しかも無料で観れるというありがたい一夜でした。
第3部「雌鳥と子供たち」
最後の演目が、いよいよ深見東州先生による台本の創作バレエ「雌鳥と子供たち」になります。
クラシカルな美を満喫したバレエから一転し、ほのぼのとした、ちょっと笑える舞台へと変わります。
親鳥の役は、前半は明るすぎる劇団・東州の鎌内美帆さんが演じました。たくさんの子供たちを、鳥に扮したバレリーナたちが演じ、可愛らしい振付の踊りを見せます。通常のバレエでは見ることができない、どこかコミカルな演出で、踊っているバレリーナからも楽しそうな雰囲気が伝わってきます。
振付は東京シティ・バレエ団監督の中島伸欣氏だけあって、しっかりとバレエの動作をもとにした、いろいろな踊りが続いていきます。音楽はシューマンの曲を使っているそうです。
後半からは深見東州先生が親鳥に扮し登場されます。出て来られただけで、思わず吹き出してしまいましたが、鶏の動きが実に細やかで笑いを誘います。卵を産むシーンでは場内が爆笑しました。
そして、いきなりクライマックスシーンに変わると、大きな蛇が襲いかかってきました。音楽も深見東州先生作曲の「炎の舞」へと変わり、緊迫感が漂う中、親鳥は子供たちを庇って逃げ惑います。
そして刀を持ってきた親鳥に扮する深見東州先生が、絶妙のタイミングで座頭市のごとく刀を一閃すると、大蛇の首がボトっと落ちるという、最も場内を沸かせた見せ場となりました。
最後は大きな卵を前にして、子供たちを守ることができたことに感謝するかのように、フェイドアウトしていきます。
ストーリーはいたってシンプルな、30分ほどの創作バレエでしたが、バレエに関心がない人でも十分に楽しめる、さまざまな楽しい工夫と演出が盛り込まれた作品だったと思います。
今回の「 どこにもない楽しさ、クリスマス時計宝飾展示会」では、毎回そうですが、ラグジュアリーなジュエリーや時計の敷居を低くして、気軽につけやすいように飾られています。
高尚な舞台芸術のイメージがあるバレエも、敷居を低くして、面白く親しみやすい演出があってもいいのかもしれませんね。見る人が楽しくハッピーな気持ちになるものであれば良いのかもしれません。